文学フリマガイドブックのこと
11/24の第十九回文学フリマに向けて、文学フリマガイドブックが制作されます。
過去5回の文学フリマで「文学フリマ非公式ガイドブック 小説ガイド」という名で刊行されていたものを、今回から文学フリマ事務局と正式に連携して作ることとなりました。
そのため、「非公式」の文言がとれたわけですが、事務局は直接の編集には関わりません。
このあたりの事情を書いてみたいと思います。
事務局として「非公式ガイド」どう考えていたか
まず非公式ガイドの成り立ちについては、先のサイトと、下記のtogetterを読むのがよいと思います。
この中にある私のツイートを見てもらえばわかるとおり、最初からこの企画自体を止めるつもりはなく、まずはやってみたらいいんじゃないかと考えていました。
そもそも以前から「文学フリマにもティアズマガジンみたいのがあればいいのに」という意見はあって、「文学フリマのオススメ作品紹介」に需要があることは感じていました。
ただ、事務局が公式にそれに手をつけることはしてきませんでした。
理由はふたつあり、ひとつは純粋にマンパワーが足りなかったこと。
もうひとつは、秋葉原時代の文学フリマでは申し込み超過で参加サークルの抽選を行ってきたことです。
文学フリマ事務局が公式に「オススメ作品紹介」を制作したとして、参加サークルが抽選になったら必ず疑いをもたれるでしょう。
「あのサークルは事務局が推薦してるから落選しなかったんだ」、「事務局は特定のサークルを優遇している」……
逆に「オススメ作品」のサークルが落選していたとしても「事務局がオススメしているサークルが参加してないというのはおかしい」という声が挙がるのは必然です。
そのため、「オススメ作品紹介」は事務局が手をつけてこなかった領域なのです。
その領域を参加者の側が担ってくれるのなら、願ったり叶ったりだと考えていました。
ガイドブックの5回に渡る発行
実のところ、私も他の多くの方と同様に、ツイッターで非公式ガイドブックを作るという話が出てからもしばらくは「本当に出るのかな?」と疑問に思っていました。
しかしガイドブックは2012年5月の第十四回文学フリマで実際に刊行され、その後も先の第十八回文学フリマまで5冊まで巻を重ねました。
二年以上も継続して刊行を続けたことは、まずそれだけで評価に値します。
そして継続したからこそ、反省を重ねて冊子としての読みやすさが向上していったように感じました。
文学フリマというイベントにとって、貴重な存在になりつつありました。
一方で、制作のノウハウがブラッシュアップされればされるほど、“非公式”であることの矛盾が見受けられるようになりました。
例えばガイドブックを会場入口付近で販売したくともブースの配置は事務局次第でどうなるかわからないとか、編集者が本を編集しながら告知活動や広告営業にも力を割かなくてはならないとか。
文学フリマの来場者向けに作っているのに、パブリシティがせいぜい出店者に対してしか及んでいない状況がありました。
これは端から見ていて、現体制の非公式ガイドブックが限界に来ていると思わざるを得ませんでした。
それに加えて、先の第十八回文学フリマの第5号の発刊のあとに、非公式ガイドの編集委員会が次期編集長を公募するというではありませんか。
これには非常に危機感を覚えました。
そもそも非公式ガイドブックのようなコンセプトの冊子は、過去にも存在していました。
古くは「Text Jockey(テキストジョッキー)」という同人誌が、そして文学フリマでも「本当はこの文章系同人がすごい」という冊子がありました。
しかし、そのどちらも今では存在しません。
なぜか?
後を継いで続ける人が誰もいないからです。
こういうものは、一度でも途切れると、それまでのノウハウやリソースは散逸し、まず復活するということはないのです。
そこで私は、非公式ガイドブックを“公式化”することを考えました。
“非公式”であることにムリが生じつつある編集委員会にタオルを投げてやろうという気持ちが半分、そしてこれだけの積み重ねがあるガイドブックが失われるなら事務局で抱えてしまおうという気持ちが半分でした。
非公式ガイドの“正常化”
今あえて“公式化”と書きましたが、わたしはこれを「正常化」だと考えています。
オフィシャルが「出すな」と禁じているものを隠れて出すなら、なるほどそれは「非公式」かもしれません。
しかしガイドについてははじめから公に出してよいと認めていた(矛盾するようですが「黙認します」と公言していた)わけですので、それにはあたりません。
参加者に有益な情報を共有することが目的の「ガイドブック」に“非公式”などという文言が付いていたことがそもそも異常なのです。
これはガイドブック立ち上げ当初に生じた非難とそれに対する編集者の対抗心が生んでしまった、歪な文言です。
その歪さは編集者に「公式(文学フリマ事務局)には迷惑はかけない=助力も求めない」という頑なな態度を植え付け、自縄自縛に陥っていました。
ですから私は「“非公式”でも“公式”でもなく、たんなる『ガイドブック』になればいい」と、その歪な枷をはずす提案を行ったのです。
来場者にとって有益なガイドブックとするために必要なことは事務局も協力する、という至極当たり前の関係性をつくる。
まさしく“正常化”です。
文学フリマ事務局とガイドブックの関係
事務局がガイドブックの編集に直接手をつけるつもりはありません。
これまでのところ、事務局としてガイドブック編集委員会に求めたことは、「小説ガイド」というタイトル、ひいては小説縛りをなくすことくらいです。
また、金銭的にも事務局は関わらず、ガイドブックは独立採算で制作されています。
おどろくべきことに、ガイドブックは前回の第五号の時からすでに黒字の収支となっており、次号も事務局がパブリシティの面で協力することにより黒字化を見込んでいます。
事務局の予算=サークル参加者から集めた参加費がガイドブックに回ることはありませんのでご安心ください。
これは、独立採算だからこそ事務局に余計な遠慮をせずにガイドブックを制作できるという言い方もできるでしょう。
事務局は、メール配信の際にガイドブックの告知を載せたり、カタログにガイドブックの告知を載せるなどの協力の他、当日のガイドブックの販売に際しても協力をする予定です。